「指示待ち人間が多くて…」
仕事柄、様々な企業のマネジメント層の方々と会話させていただく機会が多い。そんな中で、近年頻繁に耳にするようになったのがこの言葉だ。まるで新手のバズワードのようにあらゆるビジネスシーンで語られ、時には愚痴として、時には組織の課題として語られている。
私自身、一社員としてマネジメントされる立場も経験してきたし、起業を通じて現場マネジメントや経営にも携わってきた。双方からの物の見方が出来ることもあり、この「指示待ち人間が多い」という言葉には常々違和感を覚えている。なぜなら、この言葉の裏には、現代の組織とマネジメントが抱える本質的な課題が隠されているように思えてならないからだ。
こうした場で主義主張はあまりしたくないのだが、昨今のこんな風潮に同調しかねる部分もあり…たまには少し真面目に独り言を呟いてみたい。(決して、特定の個人や組織を批判するものではないので念のため)
マネジメントの機能不全がもたらす「指示待ち」の実態
まず考えるべきは、組織において「自発的に動く」とは具体的に何を指すのかという点だ。
多くの場合、管理者は「自分で考えて行動してほしい」と言いながら、実は「自分の意図する通りに動いてほしい」と考えているのではないだろうか。そして、不幸にもその意図が明確に伝わっていないことに気づいていない。もしくは、伝えようとする努力すらしていないのが実情だ。
また、「指示待ち」を批判する一方で、メンバーの判断ミスや失敗に対して管理者は責任を取る覚悟があるだろうか。メンバーが善意で自発的に取った行動が結果として不利益を招いてしまった場合、「指示を仰ぐべきだった」と批判するのでは、組織は萎縮するばかりだ。「自主性」と「独断専行」の境界線が曖昧なまま、結果責任だけがメンバーに押し付けられる状況では、誰もが慎重にならざるを得ない。
このような矛盾した状況下で、メンバーが自発的に動けないのは当然の帰結なのである。
しかし、これは管理者だけの責任ではない。日本企業においては中期経営計画が場当たり的であったり、抽象的すぎたりする傾向が強い。「顧客第一」「イノベーションの追求」「品質向上」といった耳触りの良いスローガンは掲げられるものの、それらを具体的にどう実現していくのかの共通認識が上層部でも図られないまま管理者に現場マネジメントが任されるような状況に陥っているのだ。
管理者自身が腹落ちしていないこのような状況下では、メンバーに与えられる情報や裁量は往々にして限定的となる。これでは、自身の可視範囲と権限の範囲内でしか現場が動けないのは当然だ。その制約の中で最大限の成果を上げようとするメンバーに対し、「指示待ち」というレッテルを貼るのは、あまりにも一方的な見方と言わざるを得ない。
この状況を陸上競技に例えるなら、有望な長距離ランナーに対して走る距離もゴール地点も告げずにスタートを切らせているようなもの。選手が戸惑い、足を止めてしまうのは当然だ。さらに言えば、コースも給水ポイントの有無も不明確な状態で「とにかく走れ」と言われても、誰も全力で走ることはできないだろう。にもかかわらず上位でゴールできなかった責任を、すべてランナーに被らせようとしているのだから、さすがに無理があると言わざるを得ない。
個を活かす新しいマネジメントの方向性
確かに、自主性が比較的少ない人材も存在する。
しかし、これは欠点ではなく個性として捉えるべきである。むしろ、詳細な指示のもとで正確に業務を遂行できる能力は、多くの領域において重要な資質となる。そもそも全員が船頭では組織やチームは成り立たない。確実に前に進んでいくためには、優れた漕ぎ手も必要不可欠なのだ。
優れた管理者は、各メンバーの特性を理解し、その人が最も活躍できる場を提供することに注力する。緻密な作業を得意とするメンバーには品質管理や法務関連の業務を、コミュニケーション能力に長けたメンバーには顧客折衝や社内調整の役割を任せるなど、個々の強みを活かした適材適所の配置が重要となる。
実践的なマネジメントの要諦
これらの課題を踏まえると、現代の組織に求められるマネジメントの要点が見えてくる。特別新しいことは何一つないが、実践となると意外に難しい要素ばかりだ。
- 組織のビジョンと理念を明確に示し、具体的な目標として落としこむこと
- 明確なイメージを創出し、チーム全体で共有すること
- 必要な裁量と情報をタイムリーに提供すること
- 各メンバーの強みを把握し、適切な役割を付与すること
これらは一見当たり前のことに思えるかもしれない。しかし、「プレイングマネージャー」という聞こえは良いものの、常にオーバーワークを強いられる名ばかり管理職で溢れた日本の組織では、こうした基本的な要素への対応が疎かになっているケースが少なくない。
現場任せではなく組織全体としてマネジメントのあり方を見直し、改善に取り組んでいく必要がある。適切なマネジメントが実践されることで、組織のパフォーマンス向上はもちろんのこと、メンバー一人ひとりがより充実感を持って働ける環境が整うはずである。
おわりに:組織変革への道筋
「指示待ち人間が多い」という発言は、自ら組織の機能不全や管理者としての力量不足を認めているようなものである。
メンバーが自律的に動けていない状況は、組織としての情報共有や権限委譲、目標設定のどこかに問題があることを示している。このアラートを適切に読み取り必要な改善を図ることで、組織は真の活性化への道を見出すことができる。そのための施策を具体的に実行していくことこそが、現代の組織や管理者に求められる重要な使命なのではなかろうか。
このパラダイムシフトを実現できた組織・チームこそが、持続的な成長を実現できるのだろう。そこでは「指示待ち」という言葉自体、過去の遺物として嘲笑の対象となっているはずだ。
bskyで拝見したタイトルが気になり、読ませていただきました。
私も管理職としてマネジメントに携わっていますが、筆者さんと同様に「指示待ち人間」という言葉には以前から違和感を抱いていました。その違和感の正体を言語化していただき、胸のつかえが取れたような気持ちです。
「中計が場当たり的」という点も、なかなか口には出しづらいものの、どの組織でも共通する課題なのだなと。
改善の道筋を描くのは簡単ではありませんが、互いに尊重し合えるチームづくりを目指し、引き続き努力していきたいと思います
通りすがりさん
反応遅くなりました。共感頂ける方がいてほっとしてます。
それぞれのフィールドで前向きで楽しいチーム作りを目指していきましょう!