世界のネットワーク機器市場で圧倒的な技術とシェアを誇るシスコシステムズ。広範なエンタープライズ向けの製品で知られる同社ですが、ネットワーク機器産業が成熟産業となり新たな市場開拓が迫られるようになったことから2015年には日本独自の販売戦略として「Cisco Start」ブランドを立ち上げ中小企業向けのラインナップを展開。その後の順調な推移を受け、昨年新たにスタートさせたのが「Meraki Go」なる新ブランド。
Cisco Startよりもさらに小メッシュな個人事業主やSOHOがメインターゲットながら、販路としてAmazonを独占指名したことでリテラシーの高い個人までもシスコの直接的な顧客とすることを見据えた意欲的なビジネスモデルで、当初予定されていたサブスクリプション(ライセンス契約)による運用も廃止が宣言され追加コスト不要でずっと使用出来るようにもなっています。
そんなMeraki Goの製品群の中からこの度『Meraki Go アクセスポイント(GR10)』(以下、Meraki Go)を自宅に導入。
これまで自宅では『TP-Link Archer C7(V5)』をアクセスポイントとして活用していましたが、テレワーク等で高い負荷がかかった際の不安定さであったり同メーカーのセキュリティアップデートに対する消極的な姿勢に不満を感じていたのでそれらを一挙に解決する術となることを期待してのこと。また、Meraki Goは複数台用意すればメッシュWi-Fiの構築も可能なので電波の届きにくい書斎にも後から容易にエリア拡張出来るという点も乗り換えを決めたポイントだったりします。
開封の儀
ボール紙の質感を活かしてデザインされたパッケージの上蓋を開けるとさっそくMeraki Go本体がお目見え。
本体は徹底的に無駄を省いたシンプルで清潔感を感じさせるデザインで無駄に何気にグッドデザイン賞も受賞してたりする模様。いい意味でアクセスポイントらしくない外観なので人目につく場所に設置しても悪目立ちしないのは助かります。
本体の下にはスタートガイドなどの冊子、上下を仕切るセパレータの下にACアダプタ、フラットタイプのLANケーブル、壁面取り付け用のネジなどが納められています。
ネットワーク専業機器メーカーの製品だけあって付属のLANケーブルはかなり良さげなシロモノです。
本体裏には壁掛け設置時に使用する金属のプレートがあらかじめ取り付けられた状態で、矢印の方向にスライドさせると取り外し可能。平置き設置する場合は金属プレート無しでOKですが、この金属プレートもかなり手の込んだ作りになっています。
プレートを取り外した本体裏は一部が凹んだ形状になっていて、電源やLANケーブルなどを挿すポート類はこの位置に設けられています。
これによりコネクタが本体からはみ出さず見た目も良いですし不用意なケーブルの抜け防止にも繋がります。この辺りの機能美もグッドデザイン賞選出に繋がった理由ではないかと思われます。
有線LANポートは1000BASE-T対応でポートは1つ。コンセプト的に人目に触れる場所に設置されることを想定しているので、ハブ的な使い方をされることは元々考慮されていません。法人向けだけあってPoEに対応しているためPoE給電可能なハブと組み合わせればACアダプタの接続を省略出来るのでよりシンプルな配線を実現出来ます。
小型の専用ACアダプタは最大12W出力に対応したもの。
本体とあわせた配色でシスコのロゴも施されているあたり、日本メーカーにはないデザインに対する強いコダワリを感じられます。
アカウントの作成とセットアップ
梱包品の確認を終えたらセットアップに取り掛かります。まずはMeraki GoをLANケーブルで自宅ネットワークに接続。うちで使っているルータ『YAMAHA NVR510』はPoE非対応なのでACアダプタも同時に繋いでおきます。
続けてAndroid端末を手元に用意してGoogle Play ストアより専用アプリ「Meraki Go」をインストール(さすがにiPhoneユーザは居ないよね…??)。Meraki Goシリーズはクラウド管理を基本としており、設定から運用管理に至るまで基本的にこのアプリを通じて行います。
アプリを起動したらアカウントを作成。画面の指示に従って必要情報を入力していきます。
個人でも導入可能なMeraki Goですが、シスコがもともと法人向けなせい(?)か現段階でも「会社」「業種」「組織規模」が必須入力となっていますのでその辺りは適当に。わたしは会社名を「Home」、業種は「その他」とかにしておきました。
入力を終えたら利用規約に同意し「アカウントの作成」を押下するとさきほど入力したメールアドレス宛に「Welcome to Meraki Go」なるタイトルで認証メールが送られてくるのでメール内の「Verify email」を選択。
これでアカウントの作成は完了。アプリに戻ったら先ほど作成したアカウントでログインします。
アカウント作成直後に間髪入れずログインしようとすると正しいユーザー/パスワードを入力しても弾かれることがある(経験談)ようなので、その際は数分待って再トライしてみると良いでしょう。
ログインして次に進めていくとアカウントにMeraki Goアクセスポイントを紐づけるため、本体裏に貼られたラベルのQRコードを読み取るよう要求されます。スキャンすると「在庫が必要の名前」という謎の入力を求められますが、ここには複数のMeraki Goを設置する際などに個々の機器を認識しやすいよう任意の名前を設定します。
うちは先々もう一台Meraki Goを用意してメッシュWi-Fi環境の構築を目論んでいるので、1台目には設置場所である「リビング」という名称を設定しておきました。この名称は後からでも変更可能なのであまり深く考える必要はありません。
さらに先へすすめて行くと通知内容を確認されますが、この辺も後から変更出来るので特にこだわりがなければ次へ。
「WiFiネットワークを作成」ではMeraki Goで運用するアクセスポイントのSSIDとパスワードを設定し、ウィザード形式でのネットワークの準備は一旦完了。
次に無線LANの接続確認を実施します。設定情報がクラウドを経由してMeraki Goに反映されるまでに最大数分程度のラグが生じることがあるようなので、ひと呼吸おいてスマートフォン等で導通確認を行ってください。
無事繋がったらそのままMeraki GoアプリでSSIDの設定を確認&変更。アプリを開き[ネットワーク]-[(作成したSSID)]-[設定]と辿ります。
先のセットアップで作成された初期SSIDはスモールビジネス環境での利用を想定してセキュリティ重視の設定になっているので、個人で利用するなら以下のような設定に変更しておきましょう。
[ランディング ページ]
なし[Webブロッキング]
設定なし[使用上の制限]
設定なし[アクティブ]
ON[ゲストネットワーク]
OFF[検出可能]
OFF[ワイヤレスアドレス変換モード]
ブリッジ(デフォルト)[無線の設定]
デュアルバンド運用(推奨) or バンドステアリングを使用したデュアルバンド運用
上記の「検出可能」は他の製品で言う「SSIDステルス」や「SSIDのブロードキャスト」と同義。「検出可能」にしておいた方が新しい端末をネットワークに加える際に多少楽することが出来ますが、Wi-Fiへの安易なタダ乗りを防ぐためにも検出不可としておくことをお勧めします。
それからもう1点。Meraki GoはデフォルトでDHCPクライアントとして動作しますが、管理上固定IPで運用したいというケースや無線LANのチャンネルも固定したいという場合があるかもしれません。これらの設定は現状Meraki Goアプリからでは行えませんが、ブラウザからMeraki Goに直接アクセスすることで裏技的に設定変更することが出来ます。
最近のアップデートでMeraki Goアプリからのチャンネルや出力の設定が可能になりました。(2020-12-07)
ブラウザから my.meraki.com もしくはMeraki Goアプリで確認したIPアドレスにアクセスすると専用のコンソールが表示されます。「Connection」のページでは利用中の機器とMeraki Goの間の接続状態が確認可能。「Neighbors」には近隣の無線LANの利用状況がリストアップされます。
IPアドレスの設定は最後の「Configure」ページから行いますが、ここには基本認証によるアクセス制限が設けられています。「ユーザー名」にはMeraki Goの本体裏に記載されたシリアルナンバー(ハイフン付きのまま)を、「パスワード」はブランクでログイン可能。
IPアドレスを固定にする際は「DNS server 1」も入力が必須となっていますが。通常は「Gateway」と同じくルーターのIPアドレスを入力しておけばOKです。
痒い所に手が届くクラウド型の設定・管理
先述したようにMeraki Goはクラウド管理が基本となっており、Meraki Goアプリを通して外出先からでも設定の変更や利用状況の確認が行えます。
Meraki Goアプリでは接続中のデバイスの情報やネットワークの利用状況、使用されたアプリケーション毎のトラフィックなどをチェック出来ます。店舗等で利用する場合、これらの情報をもとに好ましくないアプリの利用を制限したり長時間居座って回線を利用している人の通信を遮断することも可能。個人利用の場合もこれらの機能は不正な通信の有無を確認するセキュリティ上の観点で大変有用です。
また、Meraki Goに何等かの問題が生じてシスコに問い合わせを行う際にサポート担当者が利用中のMeraki Goの設定を直接覗いて的確な助言をしてくれるのもクラウド管理ならではの大きなメリットです。
電波状況
Meraki Goはアンテナ内蔵タイプのうえスモールビジネス向けに安定性重視で作られた機器だけあって、天下のシスコの製品といえどもArcher C7(V5)などの海外メーカーのコンシューマ向けアクセスポイントに比べたら電波の到達距離は短いだろうと予想していたのですが、「WiFiミレル」を用いて同じ条件(チャンネル固定 & バンドステアリング有効)で電波状況を確認してみたところ意外にもMeraki Goの方が良好な結果に。
Archer C7(V5)は購入時のレビュー記事内でも同様の条件で電波状況を確認しているのですが、最近近隣にAPが乱立しているせいかファームウェア更新で何らかの調整が入ったのか初回計測時よりスコアは大幅低下。特にアクセスポイントに近い場所での電波状況の悪さが気になる結果となっていましたが、Meraki Goはその辺もソツなく安定した値を出しており1階は全体的にスコアが向上しています。
2階では誤差程度の差しかなく、場所によってはこれまでと同様に電波状況により接続が不安定になることも考えられますが、ここで効いてくるのがメッシュ対応の有無。Meraki Goはメッシュに対応しているのでもう一台用意して2階に設置すれば簡単にエリアを拡張することが可能。とりあえずは1台体制で様子を見る予定ですが、早期に2台目を購入してより強固で安定したWi-Fi環境を構築しようと思います。
まとめ
最近はWi-Fi 6(802.11ax)に対応した機器も出てきていますが、Wi-Fi 6の本格普及は2022年以降とも言われていますし初期段階では消費電力の高さや不具合などが避けられないので現時点で安心・確実な無線LAN環境を構築するのなら枯れたWi-Fi 5(802.11ac)対応機器を利用するのが鉄板。ビジネス向けの高い品質をもってコンシューマ~スモールビジネス向けに殴り込みをかけたシスコのMeraki Goはその最右翼ともいえる存在です。
通常販売価格が2万円強と一般的なコンシューマ向け製品に比べ若干割高ではありますが、1~2年おきにメルコやTP-Linkなどの上位製品をとっかえひっかえするくらいなら結果Meraki Goの方が安上がりだし、サポート面でも安心出来ると思います。
Meraki Go AP追加購入でメッシュWi-Fi環境構築(2020-08-26)
Meraki Go アクセスポイント(GR10)を1台追加購入し念願のメッシュWi-Fi環境を構築しました。
新に追加したMeraki Go アクセスポイントは2階に設置して有線LANでイーサネットバックホール接続。追加するアクセスポイントに貼付されたQRコードをMeraki Goアプリで読み取るだけ…と煩わしい設定は一切不要でメッシュWi-Fiの出来上がり。各周波数帯のチャンネルも既存のAPとかぶらないよう自動で調整されるようだし、現在ASUSやNetGearなどが家庭用として市販しているメッシュ対応システムよりよっぽどお手軽かもしれません。
先に設置していた1階のAPの位置を微調整するなど最適化を図ったうえであらためて電波状況を確認。
各計測地点ではいずれも5GHz帯を用いたWi-Fi6(11ac)接続となっており、電子レンジやご近所に乱立するアクセスポイントからの影響を受けず無線LAN接続が可能。以前2階は2.4GHz帯での接続に切り替わったりしていて若干不安定だったので快適そのものです。